プロに聞く、ランニングシューズの正しい使い方
2019.03.18(最終更新:2023.08.22)
シューズアドバイス歴が25年にもなり、独立後の6年間で1,000人を超すランナーにシューズ選びをしてきた藤原商会の藤原岳久さんにお話をきく最終回は「正しいランニングシューズの使い方」です。
常に故障を抱えていた学生時代
― さて、最終回です。「正しいランニングシューズの使い方」がテーマです。
藤原 お手柔らかにお願いしますね!(笑)
― 藤原さんはラン歴だけでも40年近い実績がありますが、シューズ選びで失敗したことはあるんですか?
藤原 当たり前じゃないですか!(笑)。失敗しかないですよ。だからアドバイスできると思っているくらいです。
― なるほど。それは、学生時代にまで遡りますか?
藤原 長くなりますよ!(笑) 東海大の学生だった頃、今みたいに情報がなかったです。インターネットもなかったですし、練習と言えば、走り込みのトレーニングばかりで、シューズ選びのハウツーや身体の使い方をアドバイスしてくれる人もいなかったです。
― どんなシューズで走っていたんですか?
藤原 クッション性なんてほとんどないペラペラのシューズでした。サイズはいつもブカブカで、血だらけでしたね。こうした数多くの失敗ばかりを重ねて、僕の学生時代は、「マラソン=故障」でしかなかったかもです。
― 今も故障を抱えているランナーは多いですよね…
藤原 振り返ってみると、自分のサイズを知らなかった。客観性がなかったことに尽きます。でも、さすがに自分でも「おかしい」と思ってくるわけです。情報もアドバイスもない中で、試行錯誤を繰り返して修正してきたことが、今につながっています。
ベストなランニングシューズが見つかる履き分け術
― アドバイスをくれる人もいない、自分に知識もない、そういう状態から転機になった出来事があったんですか?
藤原 大学卒業後、ニュージーランドに行ったことで意識が変わりました。「硬いアスファルトをそんな薄いシューズで走ると怪我するぞ!」って言われたんです。え?!と思って、よくよく観察すると、ニュージーランドでは皆、アスファルト、石畳、トレイルなどシーンによって履き分けていたんです。
― 前回のテーマだった「履き分け」の初体験ですね!
藤原 それです。たぶん、ニュージーランドの人は、自分の足を守りたかっただけだと思うんですけど、レースの時だけ薄底シューズを使って、普段はクッション性あるシューズを履くとか当たり前でした。日常的には、犬の散歩でさえも、きちんとランニングシューズを履いているくらいでね。
― 藤原青年にとって、一種のカルチャーショックだったわけだ!
藤原 そうなんですよ。つまり、ニュージーランドの人は、シューズに対する教養が高かったんです。この体験は強く印象に残っていて、帰国後はこの履き分け術を新しいシューズの使い方だと押しました。周囲からは「かぶれた男だ!」と見られていたくらいでしたからね(笑)。
シューズへの依存度とは
― 依存度とはどういうことですか?
藤原 シューズがやれることはとてもシンプルなんです。身体がまだ長距離に適応できていないとき、ランニングシューズは適正な動きにしっかり誘導してくれます。だから、距離に慣れていない初心者ランナーには、シューズへの依存度がより高くなるわけです。
― 初心者はシューズに依存してもいいんですね!
藤原 そうです。前にもお話しましたが、フルマラソンの場合、ランナーは5万〜6万回着地しています。それだけ短時間で地面に接地しているわけですから、足へのダメージも相当あります。
― 一方で、シューズへの依存度が低くなるときは?
藤原 身体が長距離に適応できてくると、シューズへの依存度は下がります。どういうことかと言いますと、レベルや能力に関係なく、シューズによるサポートが少なくてもすむ状態になるんです。
― ラン歴を重ねて、身体もランナー仕様になってくると、自分への依存度が高まってくるわけですね!
藤原 はい。足りなかった部分をシューズで補っていた段階から、自分で自分の体をコントロールできるようになるんです。だからサポート性やクッションが少ないシューズも徐々に適用してくるのです。でもね、シリアスランナーもコンデイションが悪いときや、疲労が溜まっている時は、よりシューズへの依存度を高くした方が良いです。
シューズは揺れてバランスを崩すもの
― 「トレーニングシューズ」「レースシューズ」「ベアフットシューズ」の3つに分けたシューズカテゴリーも共通するものがあるそうですね?
藤原 シューズは、メーカーの種類だけでもたくさんありますし、その中でも厚さや軽さは様々ですけど、どんなシューズでも共通しているのが、かかとからつま先にかけて振り子のように前後に揺れる設計だということです。
― 前後に揺れる設計とはどういうことでしょうか?
藤原 人は直立しているだけでは前に進めませんよね。重心を傾け、足が自然と前に出る一歩、つまり、静止から前にバランスを崩す連続が前進です。シューズの持つ前後に揺れる構造は、このバランス崩しを促進させ、推進力に変えるものなんです。
― シューズならではの揺れる特性だからこそ、クセをシューズから見つける方法はありますか?
藤原 もちろん! 例えば、履き慣れたシューズを並べてうしろから見比べてみてください。左右のバランス崩れ、かかとのすり減りの違いがあるものです。次に、左右両方のシューズを手に持って裏返し、アウトソールを見比べてください。左右ですり減った位置の違いが見てとれます。
― クセがわかれば、課題や修正点も分かる。そして、次に適切なシューズ選びもシューズが教えてくれるわけですね!
藤原 それはその通りです。でも実は、シューズは決して主役ではないという持論があるんです。シューズは車でいうタイヤで、脇役なんです。
― シューズが脇役なら、主役は?
藤原 主役はボディである身体です。ただ、タイヤを履き替えると感覚や疲労度が変わるように、いくら主役が強くても、脇役によって走り方も変わってきます。脇役も大事な役割を担っています。
― 究極の正しいシューズの使い方は、なんでしょうか。
藤原 ランニングの究極の目標は、ランナーならみんなスポーツとして走ることがうまくなることです。シューズは走るための道具で、コンディションやレースに向けて、使い分けながら向き合っていく必要があります。 シューズは体調やクセなどヒントがたくさん秘められています。シューズから教えてもらえることは多く、依存はし続けていいと思うので、目標は、主役である体を強くしながらシューズにいつまでもヒントをもらいながら、体の使い方がうまくなることではないでしょうかね。
まとめ
6年間で1,000人以上のランナーにシューズアドバイスをしてきている藤原岳久さんは、知識を深め、体験を通じて実践力を身につけながらアップデートを繰り返し、今でも試行錯誤が続いていると言います。自分に合ったジャストフィットするシューズを見つけ、怪我をしないよう履き分けを行い、シューズに頼りながら自分を強くしたとき、ランニングがもっともっと楽しくなっていることでしょう。
シューズアドバイザー 藤原岳久
1970年生まれ48歳。東海大学競争部出身。日本フットウエア技術協会理事。JAFTスポーツシューフィッターBasic/Master講座講師。足と靴の健康協議会シューフィッター保持。元メーカー直営店店長,販売歴20年。NewZealandをコヨナク愛する。ハーフマラソンベスト1時間9分52秒(1993)、フルマラソンベスト2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン) 、富士登山競走5合目の部 準優勝 (2005)。