プロに聞く、怪我をしないためのシューズ履き分け術

プロに聞く、怪我をしないためのシューズ履き分け術

プロに聞く、怪我をしないためのシューズ履き分け術

2019.03.08(最終更新:2023.08.22)

 シューズアドバイス歴が25年にもなり、独立後の6年間で1,000人を超すランナーにシューズ選びをしてきた藤原商会の藤原岳久さんに「ジャストフィットするランニングシューズの見つけ方」をお聞きした前回に引き続き、今回は「怪我をしないための履き分け術」をお届けします。

藤原流履き分け術、3つのカテゴリー

― 今回は「履き分け」についてお聞きします。まず、藤原さん流の「履き分け」とは何ですか?

藤原 最近のシューズは、薄底だ!いや、厚底だ!ドロップがうんぬん、素材が、反発力が、などなど多種多様なシューズがあって、正直どれを選んでいいのかわからなくなると思うんです。そんな時はシンプルに考えてください。 私は、履き分けするシューズを3つのカテゴリーに分類しています。

1. トレーニングシューズ

普段のランニングで履くシューズです。しっかり支えてくれる安定感、距離に対する不安・心配を除いてくれる安心感、習慣性がついてきたランナーや趣味が深まってくるタイミングに最適なカテゴリーです。シリアスなランナーでも、コンディションが悪かったり、疲労が溜まっているリカバリー用に履くと良いでしょう。

2. レースシューズ

勝負シューズと呼ぶランナーもいるとカテゴリーです。一般に薄くて軽いシューズを指します。薄くて軽いぶん、足上げが優れていて、ランニングの速さの法則でもあるストライドと回転数(ピッチ)を稼げるシューズと言えます。ただし、サポートが少ない。そう言う意味で走れる身体が出来ている人向けと言われる訳ですけど、月一程度しか走らないランナーとか、短い距離だったり、ファッションから入りたいランナーのように運動負荷が少ない方であれば、選んで良いカテゴリーだと思っています。

3. ベアフットシューズ

自分の状態を知るためのシューズと呼んでいます。フォームを矯正できたり、自分の欠点を知るには良いと思います。つまり、ベアフット系は自分とコミュニケーションを図るシューズなんです。ただし、長い距離を走れるシューズでもないとも感じていまして、使い方を間違うと怪我を誘発するので導入方法や使用頻度には注意が必要です。

 

― 市民ランナーにとって、この3つのシューズを同時に買っておくのはなかなか難しいものなんですが……

藤原 経済的な理由はつきものですよね。いくつかのパターンをご紹介します。


ベストなランニングシューズが見つかる履き分け術

初心者ランナーの場合

普段のランニングで履くトレーニングシューズはマストです。フィット感の良いものを選ぶことを前提に、履きやすく、ご自身のランニング動作に合っているものを選ぶと良いでしょう。ただし、1つのシューズを履き潰す前に新しいシューズを揃えて欲しいのです。履き潰す直前のシューズは、足への馴染みが良く感じるはずです。でもそれは、かかとの極端なすり減りに代表されるように、あなたのクセに適応しすぎていることを意味し、シューズ本来の機能が損なわれている状態です。一時的でもいいので、新旧のシューズを並行して履き比べながら過ごしてみてください。その違いを理解できると思います。

ラン歴3,4年ほどの習慣付いてきたランナーの場合

ランナーは履きたいものを履く習性があるでしょ?(笑) その気持ちはわかるんです。ですので、履き慣れたシューズ、ベースとなるトレーニングシューズをまず1足。そして、それとは別に、少々履きづらいものを僕なら勧めます。履きづらいとは、タイプの違うシューズを選ぶことを指します。もちろん理由がありまして、タイプの違うシューズを履くことで、自分の体の使い方の欠点を知り、新しい発見につながり、それがレベルアップにも役立つのです。履き分けシューズを選ぶタイミングとしては、改善点を見つけたり、次の目標を見つけた時です。こうした試行錯誤の繰り返しがレベルアップにもモチベーションにもつながるはずです。

― 藤原青年にとって、一種のカルチャーショックだったわけだ!

藤原 そうなんですよ。つまり、ニュージーランドの人は、シューズに対する教養が高かったんです。この体験は強く印象に残っていて、帰国後はこの履き分け術を新しいシューズの使い方だと押しました。周囲からは「かぶれた男だ!」と見られていたくらいでしたからね(笑)。


ベアフットブームと「履き分け」を進める理由

― 「履き分け」をさらに勧めるようになったきっかけがベアフットブームだったそうですね?

藤原 2009年から2014年にかけて、、ベアフットランニングがブームになった時がありました。ベアフット系は、シューズが担っていた機能を、本来足に備わった機能を使ってコントロールしようというもので、フォームに矯正が必要な方には有効でした。一方で、ふくらはぎを肉離れする人も出てきて、注意が必要だと同時に感じたんです。

― ベアフット系という新たな選択肢が生まれた訳ですね?

藤原 自分の体験からなんですが、ベアフット系は自分と向き合うシューズで、結果的に自分の体に優しくなることを知りました。一方で、長い距離を走るには向いていないシューズでした。

― 一長一短があったわけですか。

藤原 サポートが詰まった厚底タイプのマキシマムなシューズだけでもダメで、ベアフット系のようなミニマムなシューズだけでもダメだと知った体験でした。と同時に、これらを両立させる「履き分け」の再スタートになったんです。

― そもそも「履き分け」を進める理由は何ですか?

藤原 それは、怪我の予防です。ランナーに怪我はつきものと言われますよね。初心者の時は分かるんです。長距離に体も足も慣れていませんから、適切なシューズ選びの知識も乏しいですしね。でも、経験的ではありますが、シリアスランナーの方が怪我が多いんですよ。速い人=薄底シューズという考えがあるように、シリアスランナーは、ジョグも、インターバル走も、ポイント練習も、リカバリー時も同じ薄底シューズ1足でこなす人が少なくないんです。

― シリアスランナーこそ「履き分け」が大事!

藤原 練習強度によってシューズを履き分けて欲しいです。勝負レース後のように疲労が溜まっているときは、身体も足も休める必要があります。そういうときこそ、安定感があり、クッション性が高いトレーニングシューズを活用して欲しいですね。

― コンディションや練習内容によって履き分けることは、走力のレベルの違いに関係なく取り入れて欲しい、ということですね?

藤原 はい、その通りです。怪我の予防にシューズの履き分けは有効な手段だと思います。ぜひ、取り入れて欲しいですね!


まとめ

ランナーなら自分に合うシューズを見つけたいもので、そして、怪我は避けたいものです。レベルや用途、練習強度などに応じて複数のシューズを履き分けることで、怪我をしないランニングライフの参考にしてみてください。次回は、正しいランニングシューズの使い方をお伝えします。



シューズアドバイザー 藤原岳久

1970年生まれ48歳。東海大学競争部出身。日本フットウエア技術協会理事。JAFTスポーツシューフィッターBasic/Master講座講師。足と靴の健康協議会シューフィッター保持。元メーカー直営店店長,販売歴20年。NewZealandをコヨナク愛する。ハーフマラソンベスト1時間9分52秒(1993)、フルマラソンベスト2時間34分28秒(2018年別府大分毎日マラソン) 、富士登山競走5合目の部 準優勝 (2005)。