こんな痛みの時は要注意!整形外科医が語る代表的なランニング障害5選

こんな痛みの時は要注意!整形外科医が語る代表的なランニング障害5選

こんな痛みの時は要注意!整形外科医が語る代表的なランニング障害5選

2017.07.27(最終更新:2023.08.22)

部活で走る中高生から市民ランナーに至るまで、ランナーにとって“怪我”は最大の関心事の一つです。  ランニング障害を長年診てきた整形外科医であり、現役サブ2.5ランナーでもある諏訪通久先生に、「ランニングと怪我」についてお話を聞いてきました。体のことやランニングのメカニズムを知り尽くした整形外科医の先生であれば、怪我をせずに済む方法を知っていそうです。まずは、ランニング障害について詳しく話を聞いてみました。

 

 諏訪通久先生のプロフィール

群馬県高崎市にある「榛名荘病院」に勤める整形外科医。専門は膝関節でスポーツ障害全般(特にランニング障害)の治療が得意。 自身もランナーとして活動し、ランニングを始めて一年でサブスリーを達成。自己ベストは第66回別府大分毎日マラソンでの2時間28分57秒。
外来、病棟、手術、日直、当直など通常の業務をこなしながら時間を作ってトレーニングをしている。1981年生まれ、群馬県前橋市出身

 — 唐突ですが、諏訪先生は怪我をされたことはありますか?

整形外科医という立場としてはお恥ずかしい話なんですが、一般に言われる「ランニング障害」を一通り経験したんです(笑)。

— いきなりカミングアウト!(笑)。でも、説得力が増します。まずお聞きしたいのは、そもそも「ランニング障害」ってどういうものですか?

ランニングは上半身よりも下肢(下半身)を主に使って行うスポーツですから、その下肢にランニングというスポーツならではの不具合が起きる障害です。その中でも代表的なものが大きく5つあります。

腸脛靱帯炎(ランナー膝)、シンスプリント、疲労骨折、アキレス腱炎、足底筋膜炎です。

腸脛靱帯炎(ランナー膝)の痛みと場所

— 代表的なランニング障害を一つひとつ解説して頂けますか?

走っている時、走り終えた時、患部を指で押した時など、膝の外側に痛みを感じたら腸脛靱帯炎の疑いありです。難しい漢字なんですが、腸脛靭帯(ちょうけいじんたい)と読みます。腸脛靭帯は、大腿骨(太ももの骨)から、脛骨(スネの骨)にまでつながっている太ももの外側をおおう長い靭帯で、膝の外側の安定を保つ役割があります。

— どんな痛みなんですか?

「足が曲がった状態から伸ばした時」や「地面を蹴った時」にきしむような痛みや違和感として表れ、初期症状の時は休むと治るんですが、進行すると慢性的な痛みを感じます。これは、ランニングだけでなく、登山や階段の下り動作で負担が大きくなり、膝の外側の骨と靭帯がこすれて摩擦が生じ、炎症化する障害です。陸上競技だけでなく、バスケットボールやスキーなどでもよく見られます。


 

シンスプリントの痛みと場所

シンスプリントは「スネの内側」が痛くなる症状です。人によっては「後側」にも痛みが出る場合があります。スネを押すと痛みがある、骨がミシミシきしむような痛みがある、走ると痛い、少し楽になっても練習すると痛みが戻る。そんな場合は、シンスプリントの疑いありです。

— “イヤな痛み”ですよね?

そうなんです。シンスプリントが厄介なのは、何度もその“イヤな痛み”を繰り返してしまうことです。痛みをガマンしながら練習をしているとストレスがたまり、パフォーマンスも落ち、長期間練習が出来なくなりますし、練習の成果が台無しになってしまいますよね。あともう一つ大事なのは、次に出てくる疲労骨折と痛みの出る場所が似ているということです。「シンスプリントだと思っていたら疲労骨折だった」なんていうこともあります。

— どういう状況で起きる症状ですか?

陸上競技、サッカー、バスケットボールやバレーボールなど、ダッシュやジャンプを繰り返すスポーツ選手に多い症状で、その競技への筋力が不足していたり、“やり過ぎ”など、スポーツを始めて間もない人がなりやすい「初心者病」などとも言われます。

 

疲労骨折の痛みと場所

ポキっといっちゃう外傷的な骨折とは違い、鈍い痛みと言いますか、なんとなく痛みが引かずに長引くとき、疲労骨折の疑いありです。ランニングのように着地の衝撃、それが小さな力でも特定の部位に継続的にストレスを与え続けると骨にヒビが入るという症状であらわれます。壁にヒビが入るイメージをすると分かり易いかもです。

— それ分かり易いですね! 先ほどのシンスプリントは「初心者病」でしたけど、疲労骨折は?

走る距離が伸びてきたり、練習強度が高まってきたときに起きやすく、「オーバーユース=使い過ぎ」が原因とされています。この疲労骨折の難しいところは、痛みの初期段階はガマンすれば走れちゃう点なんです。

— 少々の痛みや違和感ならやり過ごせちゃう…

でもね、ラン歴としては、そこそこ距離が伸び、練習強度が高まってくる時期ですし、この“走れちゃう”が落とし穴なんです。

— 落とし穴?

というのは、疲労骨折は治りが遅いんです。ガマンできちゃうことで結果的に放置していると長期的な治療を余儀なくされます。違和感を覚えたら、お近くの整形外科に行ってレントゲンやMRIを撮ってもらうことをオススメします。

 

アキレス腱炎の痛みと場所

ランナーの中でも“蹴るタイプ”のランナーに多いのがアキレス腱炎です。どちらかと言えば短距離ランナーの方が多いのですが、短距離から長距離に移行したランナーは要注意ですね。

— 短距離のクセが抜けないということですか?

そうです。短距離と長距離は走り方が違いますから、フォームを治さないといけないんですけど、学生時代に短距離をしていて、大人になってマラソンを始めた人っていると思うんですが、クセってなかなか抜けないですからね。

— どういう時に痛みを感じるものでしょうか?

“下り”で生じるシンスプリントとは逆で、階段の上りや上り坂です。“蹴る”動作、もしくはそれに近い動きをする時、アキレス腱に負担が掛かるんです。

 

 

足底筋膜炎の痛みと場所

— 私、これを経験したことあります。歩くたびに痛むんですよ

日常生活的には、身近に影響を感じる症状かもしれませんね。読んで字のごとく、足裏にある筋膜や腱に炎症が起きるスポーツ障害ですが、ランニング動作の繰り返しによる着地障害と言い換えられます。

— どういう時に“疑いあり”と判断したら良いですか?

着地、または蹴り出しに痛みを感じたり、かかとの下側を押すと痛みを感じる時は疑った方が良いです。立ちっぱなしや歩きっぱなしで痛くなる時も兆候かもしれません。同じ衝撃を長時間継続的に受ける時、まさにランニングでは注意が必要で、表面が硬いロードを走るランナーにとって足底筋膜炎は身近な怪我と言えると思います。

 

「貧血」や「摂食障害」もランニング障害の一種?

— 代表的なランニング障害は下肢の怪我だというのはよく分かりました。でも、先生は他にもランニング障害があるとお聞きしました

そうなんです。「貧血」や「摂食障害」もランニング障害の一種だと思っているんです。実は自分もそうなんですが、ランナーって貧血の方が少なくないんですよ。

— 貧血もランニング障害?

貧血とは、血液中で酸素を運ぶ赤血球、中でも赤血球の本体であるヘモグロビンの濃度が基準値を下回った状態を指します。ランニングは、赤血球が運ぶ酸素を介してエネルギー代謝を行う運動でもあるんですが、女性は月経がありますので、貧血症の人が多いのは理解できると思うんですけど、ランナーは着地のたびに足裏を走る毛細血管で赤血球を壊してしまい溶血を起こし、汗とともに鉄を失うという特徴があります。つまり、鉄欠乏性貧血の人が多いんです。

— 摂食障害もランニング障害なんですか?

ランニングをダイエット目的でされている方も多いですよね。“痩せたい!”と思ってランニングを続けていると、痩せていることが良いことだと思いがちで、特に女性に多い症状ですが、「食べること=悪」と捉えてしまうランナーがいます。ランニングはかなりのエネルギーを消費する有酸素運動ですから、運動したらしっかり食べてエネルギーを補給しなければいけません。精神的な部分が含まれますけど、過度に追い込まず、運動したら食事もしっかり取って欲しいですね。


 

まとめ

お恥ずかしい話と恐縮されながらも、「ランニング障害」を一通り経験されたことをカミングアウトしてくださったことは、怪我に悩むランナーとして身近に感じられた方もいたのではないでしょうか?

 ランナーであれば「ランニング障害」は、一度は耳にしたことも、もしくは患った経験がある方もいると思います。なんとなくある痛みや違和感が、どこから来て、どういう症状なのかを知っておくことなど、基礎知識を持っておくことはとても大切だと諏訪先生は繰り返し語ってくれました。

(インタビュアー:山田 洋)

 

取材協力:榛名荘病院

群馬県榛名山の南麓にある豊かな自然に囲まれた地域包括医療を担う病院。一般外傷から脊椎手術、膝・肩関節鏡手術など地域の患者様の様々なニーズに対応しています。また充実したリハビリテーションを提供し、患者様の社会復帰を支援します。


住所:群馬県高崎市中室田町5989

TEL:027-374-1135

 

 

山田 洋

スポーツジャーナリスト

アスリートだけでなく経営者など幅広いインタビューを数多くこなす。また、ロードからトレイル、ウルトラも走る市民ランナーでもある。