阿見AC SHARKS
日本陸上界初となる中距離専門プロチーム。2018年楠康成1人の所属で発足、その後2020年4月、田母神一喜と飯島陸斗が加わり、3人となり始動。
OFFICIAL SITE
SHARKS will change the middle-distance world.
Standing in the middle distance runners.
それぞれが積んだ経験を未来へつないで。
SHARKSが中距離界を、スポーツを、変えていく
episode : AMI AC SHARKS
「AMI AC SHARKS」は、需要の少なさから競技に集中できない中距離界の現状を変えるべく立ち上がった、中距離専門のプロアスリートチームだ。楠康成氏に田母神一喜氏、飯島陸斗氏など、大会でも好成績を残すランナーたちが名を連ねる。約2年間の活動を経て、彼らが見ている“これからの景色”を聞いた。2022年3月31日を持ち、田母神氏がSHARKSからの独立を発表し、本記事はSHARKS所属・田母神一喜として最後の記録となった。(取材は2021年12月)
今後はスポンサー企業の一社としてSHARKSと新設団体スリーエフの関係性は継続され、田母神氏とBROOKSとの関係も今後も変わらず続いていく。
2021年夏、東京オリンピック。SHARKSのキャプテン・楠康成氏は、ひと味違う使命感でスポーツに打ち込む一人の選手と出会った。南スーダン代表のグエム・アブラハム氏だ。
「新型コロナウイルスが蔓延するなかで、五輪開催にはさまざまな意見がありました。出場するアスリート自身から、何らかの声を引き出そうとする報道も少なくなかった。僕も個人としては出場したいけれど、あの状況下での開催是非については、なにが正解なのかわからない。アスリートとしてどんな言葉を発すればいいのか、答えを持っていなかったんです。そんなとき、スポーツの価値を改めて感じさせてくれたのが、アブラハムでした」(楠氏)
アブラハム氏の母国・南スーダンでは、長らく内戦が続いている。彼は自身のオリンピック出場で、国民に勇気を届けたい。争うのではなく、ともに応援したり助け合ったりすることの大切さを伝えたい、と言った。
「アブラハムは『東京オリンピックが開催されたほうがいい』と言い切れる、確かな使命を背負っていたんですよね。スポーツが国や国民に与える影響について思い知ったし、僕にもできることはないかと、改めて考えるきっかけになりました」。
そんな出会いからも視座を引き上げてもらい、2021年冬にSHARKSは事業化。阿見アスリートクラブのトップチームとして活動してきた4年間を経て、株式会社SHARKSという新たな一歩を踏み出した。個人/チームでの練習のほか、子どもたちの陸上教室やファンコミュニティの運営、グッズ制作など、活動の幅を広げている。
SHARKSがつくる
「新しい選手の在り方」
2022年2月、SHARKSは淡々とトレーニングを積み重ねる時期を迎えた。例年はあたたかい海外でシーズンインすることが多いけれど、長引くコロナ禍ではそれも難しく、拠点は国内。距離やスピードを磨くほか、シューズの感覚をすりあわせていくのも大切な作業だ。
「新しいシューズを履きはじめたら、お互いの感覚や使い方をシェアするんです。チーム内でもフォームや走り込む距離が全員違うから、自分とは違うアプローチが聞けて、勉強になる。僕がとくに参考にするのは、田母神の感覚ですね」と、楠氏。
つま先で着くのか、土踏まずでとらえるのか。かかとで降ろすのか。数ミリ単位で接地の感覚を探りながら、いいポイントに合わせていく。腰を入れたり前傾になったり、姿勢も重要だ。さまざまなBROOKSのシューズをそんなふうに丁寧に味わい、履いてきた。
「BROOKSのシューズは、年々進化を遂げています。とくにハイペリオンシリーズは、軽くてほどよい反発があって、ほかのブランドにまったく引けを取りません。とても信頼しているし、チームとブランドが、それぞれの分野で切磋琢磨してきたと感じています」(田母神氏)。
SHARKSにも、最初は厳しい視線が向けられていた。クラブチームというかたちでプロとして、本当に活動できるのかを訝しがる人も少なくない。けれど、メンバーが結果を出すにつれてチームは進化し、風向きも変わっていく。
「実業団であれば、走ることで企業を背負うかたちになります。でも、SHARKSが走る理由は、SHARKSのため。僕たちの活動がSHARKSを少しずつ形づくっていって、なおかつそれが原動力になっていくチームなんです。選手としての“新しい在り方”を見せられているのは、後に続く人たちの希望になると思っています」(田母神氏)。
SHARKSの想いを深め、
新たな挑戦へと広げていく
活動をスタートしてからの2年間、SHARKSはずっとコロナ禍のなかにいた。本来なら未来ある子どもたちともっとふれあいたかったのに、なかなかそうしたイベントは叶わない。しかしそのぶん、自分たちの活動で明るいニュースを届けようというモチベーションも、高まる。
「すべての軸にあるのは、子どもたちの未来を切り拓くことです。チームを発足したのも、高校卒業後に中距離を続けられない日本陸上界の現状を変えたいからでした。僕がずっと育てられてきた阿見アスリートクラブで『康成くんみたいになりたい』と言ってくれる子どもたちに、安心して中距離を走り続けられる環境を残してあげたい。その目標をはっきりと胸に刻んでいれば、モチベーション高く練習に取り組めるし、結果も出せるということが実感できる2年間でした」。
ロンドン五輪出場経験もある横田真人氏が立ち上げ、コーチを務める中長距離のトラッククラブ「TWOLAPS」とも、手を取り合って活動してきた。
「TWOLAPSで学んだことや活動経験を活かして、これからはもっとSHARKSならではのことをやっていきたい。SHARKSはまだ小さなチームだけど、だからこそ地域やファン、子どもたちに寄り添って、より深いコミュニケーションができると思っています」(楠氏)。
飯島氏はSHARKSについて「実業団に比べて自由度が高く、やりたいことに挑戦できるのが強み」だと語る。たとえば田母神氏はSHARKSの活動と並行して、地元・福島でもランニングイベント団体「ⅢF」(FUN FROM FUKUSHIMA)を立ち上げた。
「地元に根付いた選手として、子どもたちにこの経験を伝えていきたいんです。SHARKSも、人口5万人ほどの茨城県阿見町から始まったチーム。地域と関わりながら活動を広げていく方法を学び、福島に持ち帰れたらと思っています」(田母神氏)。
田母神氏がSHARKSのマインドを地域へ還元したいという一方、飯島氏は拠点をSHARKSに置いたまま、視野をさらに広げている。
「中距離が直面している状況って、スポーツ全般に言えることなんですよね。たとえばラグビーだって、子ども時代に体験できる場がないから、なかなか競技人口が増えません。SHARKSとして活動するなかで、似た課題を持ったスポーツの競技者と関わる機会も多くなってきました。だからSHARKSの活動を深めて、いずれはさまざまなスポーツに展開していきたいと考えています」(飯島氏)。
最初はただ、自分たちがぶつかった中距離界の現状を打ち破りたいだけだった。でもいまは、さらに遠くの景色が見えている。まず取り組むことは、それぞれに世界と向き合い、五輪や世界選手権で結果を残すこと。そうやって走り続けた先で、陸上競技全般やほかのさまざまなスポーツまでを、変えていきたいと燃えている。
楠康成 / Yasunari Kusu
1993年8月21日、茨城県阿見町出身。 阿見AC創設時メンバー。高校まで阿見アスリートクラブで育ち、東洋大学附属牛久高校卒業後、小森コーポレーションを経て、阿見ACトップ選手となる。 2017年拠点を単身アメリカに移し、ロンドン五輪1500m銀メダリストのレオ・マンザーノ選手と共に指導者であるライアンコーチのもとでトレーニングを積む。 2018年帰国後、阿見ACに加入。現在はTWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 1500mで日本選手権準優勝の実績をもつが、2019年シーズンより3000mSCに挑戦。 2戦目の2000mSCにて日本最高記録を更新。 2020年日本陸上競技選手権大会3000mSCで準優勝、日本歴代10位の記録を出す。 日本選手権優勝、パリ五輪標準記録突破を目指す。
PB800m 1'50"93
1500m 3'41"27
3000mSC 8'28"01
2000mSC 5'31"82
5000m 13'44"00
10000m 29'01"73
日本陸上競技選手権 男子1500m 第3位(2020)
日本陸上競技選手権 男子3000mSC 第2位(2020)
2000mSC 日本最高記録樹立(2019)
田母神一喜 / Kazuyoshi Tamogami
1998年2月22日、福島県郡山市出身。 学法石川高校卒業後、2019年中央大学の主将に就任。 箱根駅伝に向けて長距離(ハーフマラソン)に挑戦し、弱点であった長い距離を克服。 2020年4月より阿見ACトップチーム加入。TWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 2021年に悲願の日本選手権優勝を達成。次の目標に日本記録の更新、世界を見据えトレーニングに励んでいる 中距離の普及にも尽力しており2020年にIIIF(読み方:スリーエフ ファン・フロム・フクシマの略)というランニングイベント団体を立ち上げる。PB800m: 1'46"68
1500m: 3'40"66
5000m: 14'29"21
10000m:29'30"91
ハーフ: 1:05'00"
インターハイ 1500m 優勝(2015)
世界ユース 1500m 7位(2015)
日本陸上競技選手権 1500m 3位 (2018)
全日本実業団 800m 3位 (2020)
日本選手権 優勝 (2021)
飯島陸斗 / Rikuto Ijima
1997年7月17日、茨城県友部出身。 中学までは野球部。高校から始めた陸上競技800mは2年目で日本チャンピオンになる。 181cmの長身を生かしたダイナミックな走りが持ち味。 早稲田大学時代は疲労骨折で苦しむ時期も過ごすが、地道にリハビリに取り組み強い身体をつくる。 その経験を活かしケアなどの知識にも精通している。 2020年、阿見ACトップチーム加入。TWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 日本選手権優勝、オリンピック出場を目指す。PB800m 1'48"65
1500m 3'41"48
5000m 13'52"36
日本ユース 800m 優勝(2014)
インターハイ 800m 優勝(2015)
日本陸上競技選手権 800m 3位(2018)
日本陸上競技選手権 1500m 8位 (2020)
日本選手権 1500m 6位 (2021)