BROOKS

Standing in the middle distance runners.

2022/02
Standing in the middle distance runners.

陸上界に「中距離選手」という需要をつくりたい。
プロチーム・AMI AC SHARKSの誕生


episode : AMI AC SHARKS

日本で唯一の陸上競技中距離プロチーム「AMI AC SHARKS」。楠康成氏をキャプテンとし、田母神一喜氏、飯島陸斗氏といった期待の若手が所属している。トレーニングや活躍の場が充実しているとは言いがたい、日本の中距離の現状。それでも3人が中距離にこだわり、いまチームで活動する理由を聞いた。

「中距離って、すごくかっこいい競技なんです。レース展開や戦略を考えるのも楽しいし、ボディコンタクトが多いのも面白い。だからこそ、陸上界であまり注目されていないのが、ずっと不思議でした」と、SHARKSを立ち上げた楠康成氏はいう。

楠氏は、高校まで800mを中心に走ってきた。トラック種目で世界に行きたいという夢を抱いていたが、進路に頭を悩ませることになる。高校の部活を終えたあと、中距離に専念できる道がなかった。 「『中距離よりマラソンをやったほうがいい』『10代から走る距離を伸ばしていったほうが、実業団や大学で重宝される』――陸上界にはそんな文化がありました。それでも中距離を続けるには、大学で箱根駅伝、実業団でニューイヤー駅伝をやりながら、中距離のトレーニングも細々と続けるしかなかった。ただ、実業団に進めば、高卒の自分は3年くらいで戦力外になるだろうと思いました。だったらそれを逆手にとって、実業団で3年のうちに中距離の実績をあげれば、状況が変わると考えたんです。幸い、すぐに日本選手権1500m2位入賞という成果を出せたため、駅伝とトラックの両立を認めてもらえました」。
こんな回り道をしなければいけないほど「中距離には需要がない」と、楠氏は語る。たとえ中距離で結果を出しても、実業団内の評価やボーナスにはつながらない。生活を守るために、長距離へ転向していくランナーも少なくなかった。熱のある指導者を見つけることもままならず、思うような練習をするのも難しい。

いまではSHARKSでともに活動する田母神一喜氏、飯島陸斗氏も、同じジレンマに陥っていた。飯島氏は「中距離でいい走りができても、周りから『日本の中距離で結果が出せてもね』と言われるのが悔しかった」と、当時の競技格差を語る。実業団からいくつもオファーを受けたが、そのどれもが長距離主体のトレーニングをすることが条件だった。

10代のころ長距離強豪校にいた田母神氏は、800mに転向してからめきめきと頭角をあらわし、2021年6月には日本一に輝いた。「最初のころは、長距離から逃げて始めた中距離でした。でも、僕と同じように、本当は中距離に向いているランナーもきっといるはず。国内で中距離の価値をもっと引き上げて、20代30代とずっと走り続けられる競技にしていきたいと考えるようになりました」。

そうした状況を踏まえ、楠氏が立ち上がった。これまでの大学や実業団にはまったくなかった、中距離選手という需要を作り出したい。いまから走り始める子どもたちが10年後、20年後も中距離に邁進できる環境を、整えたい。 「そんな気持ちで立ち上げたのが、AMI AC SHARKS。僕の育った阿見アスリートクラブで、中距離を専門とするトップチームです。同じように悩んでいる飯島と田母神にも、声をかけました。彼らが入ってくれたら、チームのパワーがぐんと上がる。クラブ以外のDNAが流れているトップ選手が加入することで、中距離選手の雇用を印象付けたい思いもありました」(楠氏)

お互いの活躍は、
うれしいけれどそれ以上に悔しい

楠、飯島、田母神。いずれも日本中距離界をけん引していくランナーたちだ。彼らはSHARKSのチームメイトだけれど、ライバルでもある。3人にお互いの関係性を聞いてみると、楠氏がやんちゃな微笑みを浮かべた。

「ライバルとしては、誰かがうまくいっているときは面白くないですよ。自分が負けていたら、とくに面白くない。でも、チームメイトとしては誰かが結果を出すことはチームの成長につながるわけで……複雑ですよね」。

飯島氏も、にやりと続ける。「田母神なんて、高校時代からずっと競い合ってきた仲なんですよ。だから、同じチームになったときは一緒にやれるうれしさもあったけれど、ライバルだという意識は変わりません。大会で負ければ、めちゃくちゃ悔しいですから」。

結成当初は全員が1500mで大会にエントリーしていたが、いまはそれぞれに専門とする距離が変わった。お互いが違う種目を走ることで、相手の成果にむやみに惑わされることは減ったという。そして、強いライバル意識が、いっそうプラスになりはじめた。

「同じチームに所属していてもレースでは個人戦になるところが、陸上の特殊なところだと思います。ほかのチームスポーツとは、連帯する部分が少し違うというか。だからこそ、お互いに張りあう気持ちはなくならないし、近い位置で切磋琢磨できることが成長につながるんです」(楠氏)

楠氏は選手でありながらチームの経営者も担っているため、悩むところも多い。自身がもっと結果を出せたらメンバーをさらにモチベートできるだろうと感じつつ、実力が伴わないこともある。その状況を整えてからチームをはじめていればよかったけれど、それでは遅い。この状況で、自分はどこまでメンバーを鼓舞できるだろうか? ランナーとしてのタイプも、狙う大会も異なるなかで、どんな言葉をかけられるだろうか――。

そうやって手探りしながら前向きに進んでいく楠氏を、飯島氏も田母神氏も、信じている。 「楠さんには、やっぱりモチベーションのところで引っ張ってもらうことが多い。一緒に走っていると、僕自身もいま何をするべきなのか、考えるきっかけになるんです」(飯島氏)「僕にとってSHARKSは、どこよりも誇れるチーム。メンバーがそれぞれに日本選手権で活躍できるチームは、なかなかありません。プロアスリートとして胸を張れます」(田母神氏)

BROOKSで陸上界に新しい風を吹かせる

そんなSHARKSとBROOKSが出会ったのは、必然だったのかもしれない。
「僕らは、中距離の現状を変えたいと思って活動をはじめました。BROOKSは、名だたるメーカーばかりの陸上競技界に切り込んでいく、日本ではまだ新しいブランドですよね。その姿勢がすごくよくリンクしていて……勝手に、運命共同体のように感じています。僕らがBROOKSを履いて活躍することで、中距離の価値が見直される。陸上競技界に新しい風を吹かせられるんです」。

SHARKSが始動してから、たった2年。最初のうちは『そのシューズ大丈夫なの?』などと、失礼な言葉にぶつかることもあった。でも、近ごろは『よさそうだね。さわらせてよ』なんて声をかけられる。周りでBROOKSを選ぶランナーは、着実に増えてきた。

SHARKSもBROOKSも、まだ進化の途上だ。同じスピリットを持つ者同士だからこそ、ともに追いかけられる夢がある。

阿見AC SHARKS
日本陸上界初となる中距離専門プロチーム。2018年楠康成1人の所属で発足、その後2020年4月、田母神一喜と飯島陸斗が加わり、3人となり始動。
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楠康成 / Yasunari Kusu

1993年8月21日、茨城県阿見町出身。 阿見AC創設時メンバー。高校まで阿見アスリートクラブで育ち、東洋大学附属牛久高校卒業後、小森コーポレーションを経て、阿見ACトップ選手となる。 2017年拠点を単身アメリカに移し、ロンドン五輪1500m銀メダリストのレオ・マンザーノ選手と共に指導者であるライアンコーチのもとでトレーニングを積む。 2018年帰国後、阿見ACに加入。現在はTWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 1500mで日本選手権準優勝の実績をもつが、2019年シーズンより3000mSCに挑戦。 2戦目の2000mSCにて日本最高記録を更新。 2020年日本陸上競技選手権大会3000mSCで準優勝、日本歴代10位の記録を出す。 日本選手権優勝、パリ五輪標準記録突破を目指す。
PB800m 1'50"93
1500m 3'41"27
3000mSC 8'28"01
2000mSC 5'31"82
5000m 13'44"00
10000m 29'01"73

日本陸上競技選手権 男子1500m 第3位(2020)
日本陸上競技選手権 男子3000mSC 第2位(2020)
2000mSC 日本最高記録樹立(2019)


田母神一喜 / Kazuyoshi Tamogami
1998年2月22日、福島県郡山市出身。 学法石川高校卒業後、2019年中央大学の主将に就任。 箱根駅伝に向けて長距離(ハーフマラソン)に挑戦し、弱点であった長い距離を克服。 2020年4月より阿見ACトップチーム加入。TWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 2021年に悲願の日本選手権優勝を達成。次の目標に日本記録の更新、世界を見据えトレーニングに励んでいる 中距離の普及にも尽力しており2020年にIIIF(読み方:スリーエフ ファン・フロム・フクシマの略)というランニングイベント団体を立ち上げる。PB800m: 1'46"68
1500m: 3'40"66
5000m: 14'29"21
10000m:29'30"91

ハーフ: 1:05'00"
インターハイ 1500m 優勝(2015)
世界ユース 1500m 7位(2015)
日本陸上競技選手権 1500m 3位 (2018)
​全日本実業団 800m 3位 (2020)
日本選手権 優勝 (2021)

飯島陸斗 / Rikuto Ijima
1997年7月17日、茨城県友部出身。 中学までは野球部。高校から始めた陸上競技800mは2年目で日本チャンピオンになる。 181cmの長身を生かしたダイナミックな走りが持ち味。 早稲田大学時代は疲労骨折で苦しむ時期も過ごすが、地道にリハビリに取り組み強い身体をつくる。 その経験を活かしケアなどの知識にも精通している。 2020年、阿見ACトップチーム加入。TWOLAPS TRACK CLUBでトレーニングを積んでいる。 日本選手権優勝、オリンピック出場を目指す。PB800m 1'48"65
1500m 3'41"48
5000m 13'52"36

日本ユース 800m 優勝(2014)
インターハイ 800m 優勝(2015)
日本陸上競技選手権 800m 3位(2018)
日本陸上競技選手権 1500m 8位 (2020)
日本選手権 1500m  6位 (2021)